アメリカでの学びを日本車椅子バスケ界へ還元

――帰国後、アメリカで学んだことはどのように生かされていますか。

及川「日本が世界で勝つためには、海外の大きさ、高さに対抗する強さを確立しなければいけません。しかも、高さに対して“同じ質の強さ”でなければならず、日本が“何を持つか”ということをはっきりさせる必要があります。その強さは、一つでは成し得ず、複数混在する中でそれが一つの力となり、チームの核となる――。それこそが、私や香西選手がフログリーから学んだ戦術、技術なのです。そして今、それが日本の強さとして定着しつつあります。例えば、ピック&ロール(※①)を成功させるための細かい車椅子操作は、日本の強さの一つです。車椅子バスケは真横に動けませんから、こういったスクリーンプレーはかなり効果的。ただし、これには数センチ単位の細かい車椅子操作をしなければならず、そのためには細かいテクニック、それを繰り出す筋力も必要。そのためにベーシックスと呼ばれる車椅子バスケのための細かいチェアスキル練習、筋トレを重ね、チームのスクリメージを繰り返し、総合的なチーム強化を図っています」

※①ピック&ロール=ボールを保持する選手のディフェンダーが動けないように、スクリーンを使って進路をふさぎ、オフェンスが優位に展開しようとする攻撃パターン。

香西「うんうん、ヘッドコーチとしてはまぁまぁですね。戦術も良くなってきているよ」

及川「はっはっは!」

香西「失礼しました(笑)。もちろん、今の上から目線の発言は冗談ですよ!僕がイリノイ大学で学んだことは、決してスーパープレーではなく、地道な基本に基づいたプレー。当時イリノイには飛び抜けて大きな選手もいなかったので、日本でも取り入れるべきと感じられるような戦術を用いていました。それを今、晋平さんがヘッドコーチとして指揮を執り、日本に浸透させようとしていることを僕はすごく嬉しく感じていますし、その中で一緒に戦うことができてとても光栄です」

及川「彼はフログリーから学んでいるので、自分が成長する方法をちゃんと知っているのです。そういう意味で、学んでは強くなるという繰り返しをする選手ですので、コーチとしてはいつもプレッシャーです。学べるものを僕が提供できなくなったら、彼は強くなっていけなくなるのですから!彼の成長は僕のチャレンジでもあるのです。彼は近い将来、間違いなく世界ナンバーワンプレーヤーになる選手だと信じています」

改めて車椅子バスケの魅力、そしてファン開拓のために、アピールをお願いします。

香西「激しさ、スピード感、ボールを操りながら車椅子の操作をするところだったり、パッと見て分かる面白さも魅力だと思います。でも、さらなる魅力はそれぞれ障がいの程度が違うなかで、チームとして選手の特徴を生かしつつ、理解しつつ、一緒にプレーするというところにあると思います。なぜこうなっているのかなという背景、ルールもかじってもらえると、さらに楽しく見ていただけるかなと思います」

及川「チームメイトの弱点を認識して、それをチームでかばい合いながら強くなっていこうとするスポーツが、他にあるでしょうか?普通でしたら、弱いところは強くすればいいという考えになるはずですが、その弱さは障がいによってどうにもならない部分を含みますので、決して変わることはないのです。そこを皆で理解したうえで、そこから生まれる新しい強さを作り出していくというのは、新しい感覚のスポーツではないかと思います。表現するのが難しいのですが、弱さと強さを使い分けながら、強さを作り出していくプロセスをぜひ見ていただきたいですね。応援に行きたいと皆さんに思っていただけるような魅力あるチーム作りをするのが、私たちの役割。と同時に、気軽に足を運んでいただき観戦できるような環境を作っていけたらなと思います」

香西「さすがヘッドコーチ!」

及川「何を言っているのだよ(笑)。彼はいつもこんな調子なのですよ(笑)」

香西「会場に来ていただければ、必ず楽しんでいただけると思います!応援をどうぞよろしくお願いします!」