音のないデフサッカー。広い視野、正確なパス、アイコンタクトが魅力

――ずっと健常者サッカーをやってこられて、日本代表のデフサッカーに入るキッカケは何でしたか。

松本「当時は、デフサッカーの日本代表は立候補で選考会に行けました。僕は立候補して参加しました。その時はだいたい50人ぐらい受けて20人が受かっていました」

松元「僕の場合は、高校時代に鹿児島実業高校サッカー部のジャージを着て、スーパーで買い物している姿を、たまたまデフサッカー協会の方に目撃され、“スカウト”されたのがキッカケです。鹿児島実業高校時代は丸刈り頭で耳に補聴器をしていましたので、当時の僕は補聴器が目立っていたのですね。スーパーで僕を見かけた後、協会の方が直々に鹿児島実業高校に問い合わせの電話を入れ、僕の存在が明らかになったわけです」

――デフサッカーをやってみた第一印象は?

松元「スカウトされるまで、デフサッカーの存在を知りませんでしたので、最初に日本代表があるというお話を聞いた時は胸がわくわくしました。でも、17歳で初めて練習に参加した時は、あまりのレベルの低さに『これが日本代表なの?』と思ってしまったのですね。僕が所属していた鹿児島実業高校は全国でも強豪校で、プロになった先輩もいるようなレベルでしたから、それと比べてしまって…。それに当時はまだ若くて少しとがっていましたから(笑)。『僕はデフサッカーに入らず、高校の部活を頑張ります』などと言って反抗的な態度をとってしまった記憶があります。でも大学1年生の時にタイのアジア大会に初めて出場して、日の丸を背負えることの喜びと誇りを強く感じることができ、そこからのめりこんでいきました」

松本「僕は日本代表チームに卓巳君より1年先に入っていました。当時は先輩が絶対的な存在で、後輩はそれに従ってプレーするのが当たり前の雰囲気でした。でも、卓巳君は入ってきてすぐに、チームにとってプラスだと感じたことを堂々と発言していました。その姿勢に僕自身も刺激を受けましたし、チーム全体が感化されましたね。卓巳君の高いプレーレベルもそうでしたが、サッカーに向かう姿勢、メンタル面などの影響を受け、チームはどんどん良くなっていきました」

松元「僕が未熟だった部分はありますが、どんな意見でも真摯に受け止めてくださり、チーム力の底上げにつながったことを実感することができました。と同時に、デフサッカーと出会い、手話を覚えたことがキッカケで、皆で一緒に手話で会話できる、コミュニケーションできるという状況を僕自身が楽しむことができました。ずっと健常者の仲間とサッカーをしてきましたので、初めての新鮮な感覚でした」

――改めてデフサッカーの魅力とは?

松元「デフサッカーは選手の聴力をできるだけ平等にするために、補聴器も外してプレーしなければいけません。健常者サッカーでしたら音を聞いて察知、判断するところも、デフサッカーではその情報は入ってこないわけです。そんな中でアイコンタクトや手話をしながら選手同士がコミュニケーションをとってプレーするところが、健常者サッカーにない面白みの一つだと思います。僕自身も、手話でコミュニケーションをとっているのを初めて見た時は『すごいな』と感じました」

松本「手話で伝えるのは、近くにいる選手に限られます。遠くにいる選手には隣の選手、さらに隣の選手、とチームメイトを介して伝達します。目で見る情報がプレーの判断材料のすべてになりますから、視野の広さは健常者サッカーより、デフサッカーの方が勝っているかもしれません。また、障がい者スポーツといっても聴覚障がいですので、フィジカルな面では激しいぶつかり合いもあり、スピード感もあります。僕たちも普段は健常者と一緒に練習をしているぐらいですから、サッカーのゲームとしても迫力のあるプレーが見られると思います」

――お互いのプレーの印象、またご自身のプレーの見どころを教えてください。

松元「GKの声は“神の声”とも言われています。チームの中で唯一、後ろから全体を見ているわけですから、とにかく声を出し続けて少しでも状況を伝えられたらと思っています。選手の耳にはほとんど届かないでしょうが、僕としては誰か一人でも僕の言葉に気付いてそれを感じてくれたら、またはチームメイトに伝えてくれたらいいなと思って指示を出し続けています」

松本「確かに卓巳君が、僕たちには届かないかもしれない声をずっと声を出し続けてくれているのを知っています。その強い気持ちがチームにも伝わっています。『走れ!』というプレッシャーにも感じる時がありますよ(笑)。とっても熱いゴールキーパーですから、卓巳君が好セーブをして『よっしゃー!』とガッツポーズしているとチームの士気も高まります」

松元「つい気持ちが前に出ちゃって(笑)。GKとしては背が小さいので、1対1などは飛び出して前に出て攻撃的に守るタイプです。それでシュートを防げたりすると気持ちが乗って、昔はつい派手にガッツポーズをしていました」

松本「今も時々やっているよ~!」

松元「あ、そうですね。今もやっていますね(笑)。
弘さんは代表歴も長いのですが、戦う上で絶対に必要な選手です。それはチームの誰もが感じていることだと思います。昔は攻撃的なポジションでしたが、今はボランチといって舵取り役をやっています。ディフェンスでは常に激しくボールにからみますし、攻撃ではゲームメイクをして組み立ててくれる頼もしい存在です。弘さんは日本に足りないメンタル面の弱さなどを克服しようと、常にタフなサッカーをしているのを感じます。これまで練習試合などではケガを恐れてか、日本は強く当たりにいけなかったりする場面も見られましたが、今、弘さんは本番と同じようなタフなサッカーを常に心掛けているように感じられます。サッカーの知識も技術もあるし、タフネスとスピードがあって素晴らしい選手です」

松本「いえいえ…、ありがとうございます。僕自身は回りの力を引き出すプレーが好きですし、それが自分の得意なプレーだと思っています。ドリブルが得意な選手にはスペースを作ってパスを出す、声に出してディフェンスのポジションを伝えられない代わりに、ディフェンスに取られないように正確にパスを出してディフェンスの位置までも伝えられるような精度の高いプレーを心掛けています」