車椅子バスケのスピードと迫力に夢中になった!

 初めて車椅子バスケに触れた時、何が一番楽しかったかというと、実は『車椅子に乗ること』だったんです。両親が僕を普通の小学校に入学させたくて、小さな頃から松葉杖を使って1人で階段も普通に上れるように訓練してきましたし、身の回りのことも自分で何でもできるようにと育てられました。毎日2時間は訓練していましたね。だから、何をするにもすべて松葉杖かスケボーだったので、車椅子バスケをするまで、ほとんど車椅子に乗ったことがなかったんです。この時、競技用の車椅子に乗って初めて、『おー、車椅子って速い!』と、そのスピード感の虜になってしまったんです。

 ただですね、意気込んで始めたのはいいのですが、この時すでに25、26才。車椅子もろくに操作できず、バスケのルールも分からず、それはまぁ、ひどいものでした。僕にはセンスがないのだと思います。本当に下手っくそで! いつもボコボコにされる日々でしたが、意外にも負けず嫌いな面がありまして。『やるからには負けたくない』と、上のレベルのチームに移籍。当時は週6回、手のマメがカチコチになるほど必死で練習していました。うまい選手のプレーを真似しながら、自分の長所を伸ばすことを心がけました。

 それでも、試合にはなかなか出られませんでしたね。同じガードのポジションに上手な選手がいたので、4、5年は試合に出られませんでした。ここから長い長い『闇の時代』に入ります(笑)。そうそう! 今でも苦い記憶なのですが、初めて試合に出してもらった時、めちゃくちゃな動きをして、1分間で3回ファールをしてすぐに引っ込められてしまったのを覚えていますよ。そんな有様だったのに、なぜ腐らずにここまで必死に頑張れたか…。僕は先天性の障がいだったので、これまでは何をやるにもハンデがあったんです。でも、車椅子バスケは最初から同じ土俵で戦えるというのがすごく魅力的でした。あと、実はですね。とにかく練習の後にチームメイトたちと飲むビールが最高に美味しかったんですよ! これが一番の理由だったりして(笑)。

 車椅子バスケの魅力は、健常者のバスケットボールとほぼ同じルールだということが一つ挙げられます。ゴールの高さ、コートの広さ、ボールの大きさも同じ。さらに、車椅子バスケは持ち点制度(*1)があり、これによって障がいの重い軽いにかかわらず同じようにチャンスがある。車椅子でプレーするのでスピード感がありますし、金属のぶつかり合う音なども激しく、迫力満点です。健常者が見ても充分に楽しめる競技ですので、ぜひ一度、会場に足を運んでいただきたいですね。そして、その時は、フロアに近い場所で臨場感を味わってほしいと思います。

 (*1)障がいの重度によって選手に持ち点が定められている。上肢の自由が利く最も障がいの軽度な選手は4.5、上肢の可動域が制限されるような障がいの重度な選手は1.0とされ、その間を0.5刻みでクラス分けされる。コートに立っている5人の合計点数が14.0 を超えてはいけないルールとなっている。