2008年に北京パラリンピック出場。その2年後には欧米10ヵ国を単身で視察した高田朋枝さん。幼い頃から視覚障がいを持っていた高田さんですが、ゴールボールの世界を通じて、何を見て、何を感じてきたのでしょうか。今後のゴールボールの展望と合わせてお話を伺いました。

Profile 高田朋枝
たかだ・ともえ/1984年6月24日生まれ。幼い時に網膜色素変性症で視力が低下し、現在は明暗が分かる程度。筑波大学附属盲学校在学中にゴールボールと出会い、2008年に北京パラリンピック出場。大会後、欧米視察の経験を生かし普及活動に尽力。現在、独立行政法人日本スポーツ振興センターに勤務しながら、日本パラリンピアンズ協会理事などを兼任している。マイブームは友達とハモリながら歌を歌うこと。

一般社団法人 日本パラリンピアンズ協会とは

パラリンピックに日本代表として出場した経験を持つ選手(パラリンピアン)有志による選手会。「Sports for Everyone」(=誰もがスポーツを楽しめる社会)の実現に向けて、競技や障がいの違いを越えてアスリートの絆を深め、パラリンピックの価値を伝えるためのさまざまな活動を行なっている。

ゴールボールの旅で学んだ“中身が大切”

 いつも姉が洋服を選んで買ってきてくれます。このピンクのシュシュとピンクのシャツもマイシスターズチョイス。でも、普段の私自身の洋服選びは、けっこう適当でして…。メイクもほとんどしません。メイクは普通にやろうと思えばできるのですが、今は視覚障がい者でもメイクをしようと思えばできるよ、というアピールをしたい時にだけメイクをしています。そうではない時は、自然体でいようと。私、悟りまして…。人間、中身が大切。中身で売ろうと思っているんです(笑)。

 そう思うようになったのは、海外のゴールボールの現状を知りたくて欧米を1年間回った経験からです。女性のメイクが当たり前のように、日本は発言なども人の目を気にするものが多いですが、欧米は違います。オシャレもしますけど、周りにどう見られるかより、自分の個性をどう表現するかとか、自分の意見をしっかり言うことが大切にされています。そういうところを見て、「外見より中身が大切なのだ!」と気付かされました。

 現在、私は日本パラリンピアンズ協会の理事、東京都ゴールボール連絡協議会の会員として国内のゴールボールの普及に、そして、日本政府が立ち上げ、日本スポーツ振興センターが事務局を担当する“スポーツ・フォー・トゥモロー”という事業で、発展途上国でのゴールボールの普及に従事しています。この道へ進もうと思ったのもまた、欧米で学んだことがキッカケでした。26歳の時、ある民間企業が運営する障害者リーダー育成海外研修派遣事業の助成金をいただき、1年間、欧米10ヵ国を回り、各国の代表チームの練習や合宿を見学したり、国際大会を視察したりしてきました。帰国後、海外で得たこの経験を普及活動に活かせないかと考えて、選手ではなく、サポートする側、普及する側に回ろうと決めたんです。

 ゴールボールといっても、どんな競技かよく知らない方もいらっしゃいますよね。パラリンピックの視覚障がい者の正式種目で、目隠し(アイシェード)をした選手が3対3で鈴の入ったボールを投げ合い、ゴールを奪う競技です。守る選手は横たわって相手の投球を阻止。目隠ししているので、ゴールやディフェンスはまったく見えませんが、相手の気配や鈴の音を頼りに攻防を繰り返します。コート上の0.5ミリの紐で引かれたラインを触って確認するなどして、投球する方向を定めます。コントロールの良い選手は、ゴールすれすれのところをバシッと決めてくるんですよ。なかなかの迫力です。

 バスケットボールとほぼ同じ大きさのボールが転がってくるので、最初は少し怖いですが、次第に怖いよりも「止めてやる!」という気持ちが強くなって、闘争心むき出しに。相手にボールが当たり、「ウッ」と痛がっている声が聞こえたりすると、「よしよし強い投球が行ってるな」とニヤリ。止めれば「よっしゃー!」って感じですね!試合が終わった後、知らぬ間に顔や体のあちこちにあざができているなんてこともあります…。一応、プロテクターはつけているんですけどね。痛みに気付かないぐらい集中しているんだと思います。

 ゴールボールの魅力は、目が見えなくても全力で動き回れる球技だということです。捕っては投げ、横たわっては起き上がり。体力、瞬発力、気力が必要です。でも、仲間と目標に向かって力を合わせるのは本当に楽しいですよ。そして何より、完全に目隠しして視力を使わずに行う競技なので、誰にでもフェアだということ。視覚障がいにも程度がありますが、それは一切関係なく、視力以外の能力で対等にプレーできるというのが大きな魅力です。